外に目を向ける女性、内にこもる男性
最近、高齢者のうつ病が増加しているというニュースをいくつか目にしました。
うつ症状は心の強い弱いに関係なく誰にでも生じる可能性があり、日常のちょっとしたことに原因がある場合があります。
先日お話を伺った方のご両親もまさにそのケースでした。
本格的なリタイア生活に入ったお父様と、子育てと親の介護が終わり夫のサポートも一段落したお母様で、日々の過ごし方が逆になったそうです。
お家でのんびりしているお父様と、色々な集まりに出かけるようになったお母様。そのうちお母様はある習い事に熱中しはじめ、お教室に通うようになりました。
とはいえお家にいるお父様のために食事の準備をしていったり、家にいるときは話しかけるようにしていたのですが、お父様は新聞やテレビを見ていて受け答えも適当なため、逆に気遣って話しかけないようにして、自分は自分でやりたいことを楽しんでいたそうです。
沈黙=不満がない、ではない難しさ
そのうちお母様が外出先から帰宅するとお父様は横になっていることが多くなり、あまり食欲もなくなってきたので心配になり、病院に連れていって色々検査をするうちに、うつ症状を発症していたことがわかりました。
お父様が医師に語ったことによると、日常楽しそうに出かけるお母様に対し「自分はずっと家にいるだけ」という無力感や居場所のなさを感じていたそうです。
また、お母様が忙しくなったこともあり、簡単な食事が多くなってきたことでさらに自分が大切に扱われていない気がしていたものの、そもそも口数が多いタイプではないこともあってどのようにその思いを伝えていいかわからず、不安や不満をずっと溜め込んでいたとのことでした。忙しそうに過ごしているお母様に対する気兼ねもあったかもしれません。
お母様はお父様がそんな思いを抱えていることに驚いたようでした。何も言わないから不平不満がないわけではないのですね。しかもお互い相手を気遣っていたことにより、よけい本音がわかりづらくなっていた面もあります。高齢男性は特に自分の感情を言葉にするのが苦手な方が多いので、それを慮るのはかなり難しいことと思います。
思い込まず、決めつけずに会話を心がける
せっかく自分のために時間が使えるようになった母親世代に「夫が家にいるなら側にいて面倒を見るべき」というのは現実的ではありません。少々食事などが手抜きになったとしても、好きなことにイキイキと取り組むほうが精神衛生上も健やかでいられるでしょう。
このご両親のケースも、お父様が自分の趣味ややりたいことを持っていればこのような事態にならなかったかもしれません。
このお父様は色々検討した結果、日々成長したり変化があるもののお世話をしてみてはどうかということになり、お花の鉢植えを買い、さらに小さな金魚も飼い始めました。
植物や魚はお世話に労力がかからないので高齢者に向いていますし、ずっと見ているだけでも癒されるようで、お父様の症状も少しずつ改善しているそうです。
夫婦は年齢を重ねると、今までの経験から相手の行動や感情を推測して行動しがちですが、それが思いこみであったり、「理解してくれているはず」という過剰な期待であったりする場合もあります。
ですので、そのズレが大きくなってくる高齢者になればなるほど面倒がらずにコミュニケーションをとるようにしたほうがいいのですが、長年の習慣でいきなり話をするのをためらうご夫婦もいらっしゃるでしょう。
ご両親同志の会話があまりなかったり、それぞれ一人で過ごしている時間が多いようであれば、子供世代の皆様が電話でもメールでも、ぜひ積極的に働きかけてあげてほしいと思います。妻(夫)には言えないけれど子供には素直に話せる…という話もあるかもしれませんよ。
プロフィール
■氏 名 佐藤 栄子
大手不動産会社で約20年、主に秘書として勤務。社員のヘルスケアも担当したことがきっかけで心理学を学ぶ。義父の介護手伝いのため会社を退職し、退職後は心理カウンセラーとして活動。電話・メール、対面などのカウンセリング、心理テスト作成、コラムの執筆を行っている。
一般社団法人 全国心理業連合会 上級プロフェッショナル心理カウンセラー認定試験 合格
「親子ネクト〜離れて暮らす親が、ふと心配になったら〜」は、離れて暮らす親を心配されているご家族向けに、親に関する様々なお役立ち情報を発信しているブログサイトです。
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