ある飲食店での会話
年の瀬が近づき、街中がなんとなく慌ただしい雰囲気になってきましたね。年末年始はご家族で集まる機会が増えると思います。離れて住んでいる親御さんも皆様に会うのを楽しみにしているでしょう。

そんな折、私がある飲食店で食事をしていると、ご家族3世代と思われる方たちが入店してきて、私のすぐ近くの席に座りました。
聞き耳をたてていたわけではないのですがその方たちの会話がところどころ耳に入ってきて、どうやら高齢のご両親が何を食べるか決めかねているようでした。
娘さん(お嫁さん?)がご両親にメニューを見せて「どれにする?何がいい?」と聞いていたのですが、ご両親は瞬時にメニュー内容を確認して決定するのが難しいようで「〇〇と同じものでいいよ」と答えたのですが「これは××が入っているから固くて噛めないよ。別のものにしたら」と言われて、またメニューに目をおとすもののなかなか決められず、結局その娘さんかお嫁さんが「じゃあこれでいいよね」と決めた料理になりました。
その後もご家族の会話はなごやかに続いていましたが、「年末旅行はどうする?」など、家族の予定について話しかけられてもご両親はすぐに答えられず「うーん…そうだねえ」と口ごもっていて、そのうちどんどん話題が変わって話が進んでいき(もしかすると耳が遠くなり聞こえづらくなっているのが原因かもしれませんが)最終的には高齢のお二人はほとんど話さなくなっている様子でした。
子供世代の方たちはご両親の希望や意向を取り入れるべく、色々と気を遣っているようにお見受けしましたが、親世代のお二人にうまく伝わっていないように感じました。

高齢者は漠然とした選択肢から選ぶのが難しくなる
私が現在活動を行っている介護予防心理美容士協会の常務理事でネイリストのYumaさんが「高齢者への施術のケースではネイルの色を決めるとき、サンプルを見せて“どれにしますか?”と聞かず“この色とこの色、どちらにしますか?“というふうに選択肢をあげて選んでもらう方が決めやすい」とお話していたのを思い出しました。
数多ある選択肢を瞬時に吟味して選ぶ決断をするのは、脳の瞬発力や情報処理能力が必要ですが、加齢に伴いそういった部分は衰えてくるので、親世代は漠然とした問いかけ(「どうする?」など)にすぐ反応しづらくなる傾向はあると思います。かといって「どうせすぐ決められないから」と周りが先回りして何でも決めるのも、ご本人はラクかもしれませんが自分の頭を使って考える機会を奪ってしまうことになります。もしかすると「何もできない子供のような扱いをしないでほしい」と不快に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
判断力は鈍っているかもしれませんが、できるだけご意向やご希望はかなえてあげたいものです。

問いかけの仕方を変えてみる
前述のYumaさんのお話にあったように、高齢の方になにか希望を聞くときにはいくつか選択肢をあげて「この中のどれにする?」と問いかけたほうがご本人の意向も伝えやすくなり、お互い理解もしやすくなるだろうなと感じました。
もちろん、親が好みそうな選択肢がわかっていることが前提となりますが、わからなければまず「2つの質問」から入って、徐々に絞り込んでいってもいいでしょう。
(例えば「和食と洋食、どちらがいい?」→「麺とご飯、どちらが食べたい?」→「うどんとお蕎麦とラーメンだったらどれがいい?」など)

これから年末年始の家族行事を計画なさる方もいらっしゃると思うので、選択肢を提示して親のやりたいこと、行きたいところなどの希望も取り入れて、より楽しい時間が過ごせますことを願っております。

プロフィール
■氏 名 佐藤 栄子
大手不動産会社で約20年、主に秘書として勤務。社員のヘルスケアも担当したことがきっかけで心理学を学ぶ。義父の介護手伝いのため会社を退職し、退職後は心理カウンセラーとして活動。電話・メール、対面などのカウンセリング、心理テスト作成、コラムの執筆を行っている。
一般社団法人 全国心理業連合会 上級プロフェッショナル心理カウンセラー認定試験 合格
一般社団法人介護予防心理美容協会 常任理事
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